「愛の土壌」のお話

園長: すぎもと かずひさ (2019年2月28日

「愛の土壌」のお話

理事長 すぎもと かずひさ

 

 年長さんがごそごそやっている。毎日、決まった時間になると数人連れだって向かう部屋がある。おや、今日は何か持っているぞ、白い布だ。大事そうに抱えて何をするのかな。よく見るとあちこちがゴムや紐で縛られて変な形。手に手にその白い布を持ってあの部屋へ入っていく。この先は年長さんしか入れない。指をくわえて部屋の外から様子を窺う。突然の歓声や笑い声。怪し愉しい雰囲気が絶好調だ。

 やっと出てきた。よほど面白かったんだ。みんな満足げな顔である。さらに、手は真っ青。そして、その青い手よりもなお青いTシャツを持っている。ところどころに見える白抜きの模様がすごい。大小の丸や蛇行する川のような線が踊っている。みんな違う。かけがえのない逸品を手に年長さんが保育室に帰っていく。湯気立つ姿がうらやましい。

 彼岸が過ぎると種を蒔く。年長さんが卒園前にくれた特別な種だ。「あいのたね」というらしい。うまく育てると年長さんが着ていたあのTシャツが作れるという魔法の種だ。そんなお話の後、先生が言った。

「今から、特別な種を配るから優しく手を広げてね」。嬉しすぎて、大切すぎて、緊張する。順番が回ってくると「わぁー」とか「きゃぁー」とか言っている。みんな同じなんだ。言葉にならないくらい大切っていう気持ち。ついに順番が来た。ころんとのっかる「あいのたね」。可愛い。

 子どもは人間の種である。愛おしそうに「あいのたね」を見つめる子どもたち。植物の種と人間の種が見つめ合っている。育ちゆく者同士のいのちの対話である。蒔いた土に声をかけ、何もないところをのぞき込み、発芽を祈る。このような日々を重ねているから、素晴らしく発見が早い。発芽。「芽が出た~!!」の言葉が園舎中を駆け巡る。連なってのご対面、眼と芽が出合う。祈りが、期待が、愛着に、親しみにどんどん代わっていく。「藍さん」とさん付けで呼んだり、ニックネームで呼ぶほどの愛情が広がっていく子どもの輪ができる。

 子どもたちは拙い。知識も技術も知恵もない。ところが、ひたむきな思いはどうだ。純情を言葉にし、行動に移す。知らないことは尋ねては調べ、得た力をすぐに使う。藍が大きくなっていく折々に天候や害虫等の困難があった。また、すくもの発酵や藍液を見守るプロセスでは日常の仕事に触れた。その原動力は「あいのたね」に語り掛けたあの日。祈りを愛情に代えて耕してきた「愛の土壌」である。

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